P118-119:膝の十字靭帯
- 膝関節の中央(関節顆間窩)は十字靭帯が大部分を占めている
- 前方から見て先頭にあるのが前十字靭帯である
- 脛骨付着部は内側関節窩に沿った顆間隆起前方の関節面上である
- 大腿骨付着部は大腿骨外側顆の軸面上で最も後方にある。
- 前十字靭帯の繊維の長さは1.85-3.35㎝
- 前十字靭帯の後方で関節顆間窩の奥に位置する。
P120-121:関節包と十字靭帯の関係
- 十字靭帯は関節包と緊密な関係を持っている
- 実際、十字靭帯とは関節包の肥厚したものでしかない。
- つまりは関節包の1派生モデルに過ぎないのだ。
P122-123:十字靭帯の方向
- 前十字靭帯:LCAE
- 後十字靭帯:LCPI
- 十字靭帯間の長さの関係には個人差がある。
- 1人1人の膝はオリジナルである。
P124-125:十字靭帯の力学的役割
- 靭帯の作用を3つの要素で考える
- 靭帯の厚さ・容積は抵抗性に比例し、伸張性に反比例をする
- 基本的に靭帯は弾力性に乏しいバネである。
- 靭帯は全て同じ長さの繊維で構成されている訳ではなく、各繊維が同時に同じ方向・力に作用を受ける訳では無い。
- 靭帯の繊維は決して全てが平行ではない。ねじれを生じている場合もある。その複雑な方向性は臨機応変に「補充繊維」と化す。
- いわば「繊維の方向性の数+運動の状態」の分だけ「補充繊維としての幅」が確保できるのだ。
- 矢状面・前額面・水平面いずれの面にも対応可能
- 十字靭帯は主に膝関節の前後の安定性を確保する。
- 関節面の接触を保ちつつ蝶番運動を可能にしている
- 但し、膝関節の前後の滑動は不可能である
- 靭帯損傷の検査は「滑動したら異常」という検査
- 膝関節の軽度屈曲30°=両十字靭帯は等しく緊張している
- 運動時における十字靭帯の繊維要素にかかる連続的緊張についての詳細な研究が課題として残されている。
P126-127:十字靭帯の力学的役割(続き)
- 膝関節の屈曲120°
- LCAE:上方(前方)繊維が緊張、中間・下方(後方)繊維が弛緩
- LCPI:前方繊維は弛緩し、後方繊維が緊張
- 一般論では屈曲時:LCPI緊張、過伸展時にLCAE緊張とするが実際は緊張と弛緩が同居している。
P128-129:十字靭帯の力学的役割(終わり)
- 関節窩に対する大腿骨顆の運動は「転がり」と「滑り」が同居している
- 転がる方向と呼び戻しを起こすのは十字靭帯であるとする説
- 膝関節90°屈曲での膝関節検査
- 後方引き出し兆候:後十字靭帯断裂
- 前方引き出し兆候:前十字靭帯断裂
P130-131:膝伸展位の回旋安定性
- 膝の長軸回旋運動は膝が屈曲している時のみ可能である。
- 側副靭帯の弛緩による2関節運動の実現
- 完全伸展位で長軸回旋が妨げられる理由
- 側副靭帯の緊張
- 十字靭帯の緊張
- 回旋0の膝とは「人工的に靭帯を引き延ばした状態」である。
- 膝関節の完全伸展+牽引によって実現
- 内旋は十字靭帯の接触によって不可
- 外旋は十字靭帯の緊張では阻止されない
P132-133:膝伸展位の回旋安定性(続き)
- 膝関節の内旋運動
- 十字靭帯が巻き付き、関節面をより強く押し付け内旋ブロックが生じる
- 内旋は前十字靭帯を緊張させ、後十字靭帯を弛緩させる
- 十字靭帯は膝伸展位での内旋をブロックする。
- 膝関節の外旋運動
- 十字靭帯は膝伸展位での外旋を制限しない
- 前方1/3は外反ー外旋の外力が90°屈曲位の膝に加わると極めて破綻しやすい。
- 後方1/3は膝が伸展位であると障害され易い
- 中央1/3は内側側副靭帯の深層と同等で外力が30-90°屈曲位の膝に加わるとき破綻する
- 膝が90°以上の屈曲の際、前十字靭帯は外旋の初期15~20°は緩み始め、次いで緊張し外旋が継続すれば大腿骨外側顆の軸面に巻き付きながら断裂さえ起こる。
- 内側半月の後方1/2は関節包によって脛骨と繋がっており、膝屈曲位で唯一外旋を制限できる
- それ以外は筋肉によるサポートのみ。
- 要は屈曲した膝に外反ー外旋の外力を加えるという事は以下のリスクをかなり大きく抱え込み、障害は順を追って生じる
- 1.内側側副靭帯の深層・表層の断裂
- 2.前十字靭帯の断裂
- 3.内側半月付着部の損傷
P134-135:膝伸展位の回旋安定性(終わり)
- 回旋0の膝
- 内旋時
- 側副靭帯の巻き付き傾向は減少する=弛緩するという事
- 側副靭帯による関節面への押し付けは弱まるが、十字靭帯の緊張が強まり押し付けが継続
- 側副靭帯によって緩められた仕掛けは十字靭帯の緊張で補完される
- 外旋
- 側副靭帯の巻き付き傾向が強化される=緊張する
- 牽引が掛かる為
- 側副靭帯によって関節面に押し付けられる
- 一方で十字靭帯は弛緩している
- 側副靭帯の巻き付き傾向が強化される=緊張する
- 側副靭帯は外旋を制限し、十字靭帯は内旋を制限する
- 膝伸展位での回旋安定性を確保する要因は以下の通りである
- 外旋:側副靭帯
- 内旋:十字靭帯
P136-137:内旋位置での動的テスト
- 図参照
P138-139:前十字靭帯断裂の動的テスト
- 図参照
P140-141:外旋位での動的テスト
- 図参照
P142-143:膝の伸筋群
- 大腿四頭筋は膝関節の伸展ができる唯一の筋であり、大殿筋についで2番目に強力な筋肉である。
- 大腿四頭筋の断面積は148㎠で滑走距離は8㎝、力は42㎏m
- 42kgmの力は屈筋群の3倍の力を誇る。
- 大腿四頭筋が重力に抵抗する必要がある為である。
- 但し、膝の過伸展時には大腿四頭筋は不要となる。
- 自然立位・僅かな屈曲を含む段階からは必須となる。
- 常に膝の運動に介入してくる筋肉である。
- 大腿四頭筋の特徴
- 4つの筋体から構成されている。
- 中間広筋:単関節筋
- 外側広筋:単関節筋
- 内側広筋:単関節筋
- 大腿直筋:二関節筋
- 内側広筋は外側広筋より強力で膝蓋骨の外側脱臼傾向に対抗している。
- 通常は2つの広筋は拮抗している。
- 拮抗した2つの広筋は1つの力に合成される→大腿軸の中央を近位へ向かう→膝の伸展となる
- 外側広筋が内側広筋に比べて強い場合:膝蓋骨は外方へ逃げ、大腿部も外旋傾向の運動になる
- 膝蓋骨は基本常に「外方脱臼」に向けて力の作用を受けている
- 4つの筋体から構成されている。
- 膝蓋骨は膝の伸展機構に含まれる種子骨である
- 大腿骨の外方から内方へ向かう牽引力を軸方向に切り替える滑車である。つまり力の効率化を図っている。
- 膝蓋骨に加わる大腿四頭筋の力
- 力Qは2つの力に分解される
- Q1は膝関節の屈曲・伸展軸に向かう力で膝蓋骨を大腿骨滑車に押し付ける
- Q2は膝蓋腱の延長上にある力で、膝蓋腱に対して上方への牽引力を発揮する。
- その膝蓋腱(脛骨結節)に対して掛かる力Q2は更にQ4/Q3の2つの力に分解できる。
- Q3は膝関節の屈曲ー伸展軸に向かう力で脛骨を大腿骨に押し付ける。
- Q4は脛骨を大腿骨に対して前方へと滑動させる。つまり大腿四頭筋の力で唯一「伸展に対して有効な成分」となる。
- 力Qは2つの力に分解される
P144-145:大腿直筋の生理学
- 大腿直筋は大腿四頭筋の筋力全体の20%しかない。
- 8kgm
- 単独で完全伸展するには足りない
- 大腿四頭筋では唯一の2関節筋である
- 筋の走行は股関節の前方、膝関節の屈曲ー伸展軸の前方にある
- つまり、股関節の屈筋であり、膝関節の伸筋でもある
- だがしかし、膝の伸展力は股関節の肢位に依存する。
- 一方で股関節の屈曲力は膝の肢位に依存する。
- 2関節筋特有の事情である。
- 大腿四頭筋が最も効果を発揮するのは以下の条件下である
- 1.大殿筋による股関節の伸展位の維持
- 2.膝関節と足関節の引き伸ばしの追加※足背の接地が前提?
- つまり歩行・走行時の後肢の引き延ばしの瞬間に大腿四頭筋の力が最も発揮される
- 体を前に押し出す力になっていると思われる
- 脛骨が大腿骨に対して移動するのではなく、大腿骨が脛骨に乗り込む方向で発揮
- 力を生み出した瞬間に踏み込むというより、最大の力を発揮する瞬間には既に一方の足に力を受け渡している?
- 大腿直筋は股関節伸展+膝屈曲だろ?四頭筋の他の筋は単関節筋だぞ?膝屈曲状態で最も働くはず。矛盾しないか?全体としてはってこと?
- 大殿筋は大腿直筋の拮抗ー共同筋(サポート)として2つの役割を持つ
- 股関節においては拮抗筋
- 膝関節においては股関節の伸展は膝関節の伸展力のサポートを行う為
- しゃがんだ状態から立ち上がる時、大腿直筋は大腿四頭筋の中で唯一有効性を失っていない筋頭らしい
- それは違う気がする。膝伸展はむしろ単関節筋の十八番。
- 股関節筋かつ人体最強の大殿筋が2関節筋である大腿直筋を介してより遠位にある膝関節への力の転換の役割を果たしている
- 歩行の際の大殿筋の役割に近い!
P146-147:膝の屈筋群
- 膝の屈筋群は大腿後方の小区画の中に含まれている
- 大腿二頭筋
- 半腱様筋
- 半膜様筋
- ハムストリングス
- 薄筋
- 縫工筋
- 半腱様筋
- 膝窩筋
- 腓腹筋外側頭※足関節の伸筋(底屈)
- 腓腹筋内側頭※足関節の伸筋(底屈)
- 腓腹筋は膝の安定化に非常に重要である
- 大腿骨顆の上に付着し、遊脚末期の膝と足関節の同時伸展(背屈)時に大腿骨顆を前方へと押し返す
- つまりは大腿四頭筋の拮抗ー共同筋である
- 短関節筋は「大腿二頭筋」と「膝窩筋」の2つのみ
- 2関節屈筋は股関節の伸展、股関節の肢位に応じて膝に対して作用している
- 縫工筋の役割は2タイプある
- A:股関節の屈曲・外転・外旋筋である
- B:膝の屈曲・内旋筋である
- 薄筋の役割
- 主たる役割は股関節の内転筋
- 副次的な役割は股関節の屈曲、膝の屈曲・内旋筋である。
- ハムストリングスは膝の屈筋であり、股関節の伸筋でもある
- 膝への作用は股関節の肢位に左右される
- 股関節が屈曲する程にハムストリングスは牽引される
- 股関節の中心軸と筋の起始部は一致していない為である
- 膝関節の角度が90°までは膝が伸展していてもハムストリングスの弾性で吸収可能である
- 90°をこえると膝の完全伸展位の維持は極めて困難になる。
- ハムストリングスの弾性で牽引力は吸収できるが運動性が激減する=要は限界
- そこから先は膝関節の屈曲によって脛骨付着部を戻し張力を弱める
- 股関節の屈曲は膝の屈曲を促進する
- 膝の伸展はハムストリングスによって股関節の伸展作用を促進する
- これは前傾姿勢から体幹を立て直そうとするときに見られる
- よじ登りで前方にあった下肢が後方に移動する時にもみられる
- 股関節の完全伸展位の時、ハムストリングスには相対的短縮eが起こり、これが膝の屈曲がより弱くなる?
- 屈曲が弱くなるとは?
- 股関節の肢位に影響を受けない単関節筋「大腿二頭筋短頭」と「膝窩筋」の有用性が強調される。
- 膝の屈筋群全体の力は15kgmであり、大腿四頭筋の1/3である。
P148-149:膝の回旋筋群
- 膝の屈筋群は同時に回旋筋でもある
- 下腿骨の付着部によって2つのグループに分類できる
グループA
- 膝関節の回旋の垂直軸XX’の外方に付着しているもの
- 外旋筋群である
- 大腿二頭筋
- 大腿筋膜張筋
- これらが脛骨を外方・後方へ引っ張り込む事で外旋が成立する
- 大腿筋膜張筋は屈筋ー外旋筋として働くのは膝屈曲時のみ。膝伸展時には膝関節の回旋作用を失い股関節の伸筋として働く。つまりは膝関節を常に伸展方向へと抑え込む=膝関節にとっても伸筋となる。
- 大腿二頭筋は唯一の単関節の外旋筋である。短関節ゆえに股関節の肢位は大腿二頭筋に対して一切の影響力を持たない。
グループB
- 膝の回旋の垂直軸XX’の内方に付着しているもの
- すなわち内旋筋群
- 縫工筋
- 半腱様筋
- 半膜様筋
- 薄筋
- 膝窩筋
- 膝窩筋は短関節の内旋筋
- 股関節の肢位に影響を受けない単独筋
- 脛骨の内側部を後方へ引っ張る事で内旋が起こる
- 膝の屈曲位において外旋のブレーキ役をしている
- 支持脚の反対側への急激な回転力が加わった際、関節包ー靭帯要素を保護する
- 膝窩筋は脛骨の後方部分を内顆側から外顆側へ引っ張る=内旋する
- 膝の後方に位置している限り、膝窩筋は膝の伸筋である?
- 膝屈曲位において膝窩筋の収縮は大腿骨を後方下方に引き寄せる為、大腿骨外側顆が伸展方向に滑走、結果的に伸展が起きる
- つまり、膝窩筋は基本は内旋筋であるが、極めて強い屈曲時は伸筋としての役割も持つ
- 膝の内旋筋群の力は2kgm
- 膝の外旋筋群の力は1.8kgm
P150-151:膝の自動回旋
- 伸展の終わりには軽度外旋を伴い
- 屈曲の開始はわずかな内旋を伴う
- これらは全て自動的で随意的なものではない。
- 自動回旋について
- 膝90°屈曲時、大腿骨は脛骨に対して10°の外旋を見せる
- =脛骨は大腿骨に対して20°の内旋を見せる
- 合計30°の回旋となる
- 膝伸展時、脛骨は大腿骨に対して20°の外旋を示す
- 膝90°屈曲時、大腿骨は脛骨に対して10°の外旋を見せる
- 膝の屈曲時に大腿骨外側顆が内側顆よりも後退するから内旋を生じる
P152-153:膝の自動回旋(続き)
- 大腿骨両顆の行程の違いは3つの因子で形作られる
- 1.大腿骨頭の輪郭の展開距離の不均衡
- 2.脛骨関節窩の形状
- 3.側腹靭帯の方向
P154-155:膝の動的平衡
- 膝関節は前提として「噛み合わせが弱い関節」である
- 安定性とは永遠のテーマと言える
- 正確には安定性と運動性の両立
- 膝のメカニズムの理解に必要な事は膝は常に動的平衡を実現しているという事実である。
- 天秤の様な単純な2項目の拮抗・平衡によって成り立っているという固定観念の放棄。
- これは人体の全てにあてはまる。自律神経ですら、筋肉ですら2項目の平衡ではない。多数の要因の絡み合いの結果、1つの結論に辿り着くだけ。
- 全ての瞬間で筋・靭帯・重力・重心・神経など様々な要素が互いに動的平衡・拮抗をしている。